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X染色体の遺伝とフィボナッチ数列 (2020-02-03)

自然界に見られる現象に隠れている数理の例として、フィボナッチ数列がよく取り上げられます。フィボナッチ数列\(F_n\)は以下のように定義されます:\[\begin{cases}F_0 = 0; \\F_1 = 1; \\F_{n+2} = F_n + F_{n+1}. \\\end{cases}\]今回は、ヒトにおけるX染色体の遺伝パターンにフィボナッチ数列が現れる[1]ことを示します。

ここでいうXおよびY染色体の遺伝のモデルは、男性の場合はXY型を持ち、女性の場合はXX型を持つという単純なものです。

ある男性の\(n\)世代前の祖先のうち、遺伝に自分のX染色体をその男性に引き継ぐ可能性がある人の数を\(A_n\)とします。具体的には、0世代前は本人、1世代前は彼の両親、2世代前は彼の祖父母、...となります。このため、\(A_0 = 1\)、男性は母からのみX染色体を受け継ぐので\(A_1 = 1\)、4人の祖父母のうち母方の祖父母それぞれのX染色体を受け継ぐので\(A_2 = 2\)、...のようになります。(\(n\)世代前の祖先の数はちょうど\(2^n\)なので、当然\(A_n \leq 2^n\)です。)実は、\[A_n = F_{n+1} \qquad (n \geq 0)\]が成り立ちます。

これを証明するには、もう1つ別に次のような数列を考えると簡単です。ある女性の\(n\)世代前の祖先のうち、遺伝によって自分のX染色体をその女性に引き継ぐ可能性がある人の数を\(B_n\)とします。例えば、\(B_0 = 1\)、女性は両親からX染色体を受け継ぐので\(B_1 = 2\)、4人の祖父母のうち父方の祖父由来のX染色体だけは受け継ぐ可能性がないので\(B_2 = 3\)、...のようになります。一般に、男性は母親からのみX染色体を受け継ぐということから次が成り立ちます。\[A_{n+1} = B_n \qquad (n \geq 0).\]また、女性はその両親からX染色体を受け継ぐことから次が成り立ちます。\[B_{n+1} = A_n + B_n \qquad (n \geq 0).\]上の2式から、\(A_{n+2} - A_{n+1} = B_{n+1} - B_n = A_n\)が導かれます。したがって\[\begin{cases}A_0 = 1; \\A_1 = 1; \\A_{n+2} = A_n + A_{n+1} \\\end{cases}\]となり、示したかったことが言えます。同時に\(B_n = F_{n+2}\)も分かります。

参考

[1] Hutchison et al. "Growing the Family Tree: The Power of DNA in Reconstructing Family Relationships." Proceedings of the First Symposium on Bioinformatics and Biotechnology (BIOT-04), pp. 42-49. (2004)


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