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GNU Kind Communication Guidelinesの本当の狙いとは何か (2018-10-26)

今週10月22日にRichard Stallman氏が発表したGNU Kind Communications Guidelines(以下、ガイドライン)が国内でも話題1,2,3になっています。しかし、一般に通用するような配慮あるコミュニケーションのためのコツを奨める文書であることが、本当の狙いを分かりにくくしているようです。この記事では、このガイドラインがどのような点で画期的かを説明します。

まず第一に、このガイドラインはLinuxプロジェクト等の他のプロジェクトがCode of Conduct (CoC)で解決しようとしている問題に対する別の形での解決を目指して準備されたということが重要です。この点はガイドラインのアナウンスではっきりと述べられています。以下CoCとして、具体的にはContributor Covenant由来のものを指します。

CoCは次の点が議論を呼んでいます:

つまり、CoCが乱用だけされてプロジェクトの貢献者に対する攻撃に用いられる恐れがあるということです。実際、LinuxプロジェクトではCoCを採用するにあたってそのような恐れを減らすべく、「規範を守らなかったり徹底しなかったメンテナは何らかの目に遭う」という段落を慎重に削除したり、独自の解釈としてどのようなものがCoC違反に当たらないのかを示そうとしています。

一方で、ガイドラインではプロジェクトに対する貢献を促す上で無用な政治的合意を求めないという姿勢が望まれています(ガイドラインの冒頭の文の末尾、および"Please don't raise unrelated political issues in GNU Project discussions"で始まる段落を参照)。それと対照的に、CoCはプロジェクトの貢献者全員に対して共通のポリシーの遵守を求めるものです。

また、ガイドラインではプロジェクトは一義的に多様性を目指すものではないとしています。この点も多様性を求めるCoCとは異なります。興味深いことに、CoCは最初の段落で多様な個人間の違い("age, body size, disability, ethnicity, sex characteristics, gender identity and expression, level of experience, education, socio-economic status, nationality, personal appearance, race, religion, or sexual identity and orientation")に対するハラスメントを禁じていますが、political viewの違いには言及していません。

CoCとガイドラインではどのように問題に対処するのかにも違いがあります。CoCの実際の運用には委員会や法律家が関わってきます。Linuxプロジェクトの場合にはTechnical Advisory Board (TAB)またはMishi Choudharyが違反報告のコンタクト先となっています。ガイドラインの方は、そもそもハラスメントが起こらないようにはどうしたらいいかを教え諭すもので、起こった場合にどうするかには言及していません。

結局のところ、GNU Kind Communications Guidelinesは「ハラスメントをしてしまわないよう未然に防ぐには普段からこうした方がいい」という貢献者に対するアドバイスであり、同時に「GNUプロジェクトにおいてはCoCで貢献者に政治的な圧力をかけたりはしない」という宣言でもあると考えられます。いずれにしても、CoCとガイドラインのどちら(or両方)が有効な問題解決策になるのかは、時間が経ってみないと分かりません。


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