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なぜGCCのドキュメントはDebianでnon-freeなのか (2017-07-02)

Debianでは(多くのディストリビューション同様)、GCCのマニュアル等を含んだドキュメントをパッケージでインストールできます。先月リリースされたDebian 9 ("Stretch")でも、gcc-6-docという名前のパッケージになっています(通常はgcc-docが依存するパッケージとして自動的にインストールされるはずです)。

このgcc-6-docパッケージがnon-freeという分類になっていることは意外かもしれません。実際、GCCのドキュメントは(多くのGNUプロジェクトのドキュメント同様)GNU Free Documentation License (GFDL) v1.3でライセンスされています。このバージョンのGFDLは(ある一定の条件を満たせば)、Creative Commons Attribution-ShareAlike (CC-BY-SA) 3.0ライセンスと併用することが許されています。

しかし、以下の理由でGFDLはDebianのsocial contractに合わないという議論がされています:

  1. GFDLはInvariant Sectionsという特別なセクションがドキュメントに含まれることを認めています。Invariant Sectionsは派生するドキュメントでも削除したり変更したりしないことが求められます。こういった要請自体は(他のfreeなライセンスでも見受けられるように)特に問題ないのですが、このInvariant Sectionsに含めてよい内容は著者ないし出版者の個人的な見解に限られる、という付随する制限が問題視されています。
  2. GFDLは、機械が読み取り可能なドキュメントのTransparent copyを必ず配布、もしくは少なくとも1年間インターネット上に公開してアクセス可能にしておかなければならないと要請しています。これは例えばGPLが求めているよりも厳しい要請です。
  3. GFDLの解釈によっては、ドキュメントがDigital Rights Management (DRM)技術で保護されたメディアで配布されることを認められないかもしれません。

結局、2006年にDebianプロジェクトで投票の結果、Invariant Sections等を持つGFDLでライセンスされたドキュメントはnon-freeとすることが決まりました。ちなみに同年、FSFはGFDLを改良するべくGNU Simpler Free Documentation License (GSFDL)という新しいライセンスのドラフトを公開しました。GSFDLにはCover TextsやInvariant Sectionsについての要件が無いためDebianでもfreeなライセンスと見なされるはずですが、その後特に進展はないようです。


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